今晚我们读书吧—白夜行
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白夜行事件に関係した少年と少女が歩んだ道は…。絶望の白い光の中、魂の荒野を行く男と女を、叙事詩的スケールで描く傑作ミステリー長篇。
38-1
その男がやってきたのは、友彦が桐原とスーパーマリオの話をした翌週の月曜日だった。桐原は仕入れのために外出しており、店に来る客の相手は友彦一人でこなしていた。中嶋弘恵もいるが、彼女の仕事は、専ら電話の応対をすることだった。雑誌に広告を載せているおかげで、電話による問い合わせや注文が結構多いのだ。『MUGEN』をオープンしたのは昨年暮れだが、その時にはまだ弘恵がおらず、桐原と二人で、てんてこ舞いしたものだった。彼女が来てくれるようになったのは、今年の四月からだ。友彦が頼むと、その場ですぐにオーケーしてくれた。職場がつまらなくて、やめたいと思っていたところだと彼女はいった。職場とは、昨年秋まで友彦が働いていた例の量販店だった。
旧タイプのパソコンを半額で買った客が帰った後、その男はやってきた。中肉中背で、年齢は五十歳には届いていないように見えた。額が少し後退しており、残った髪をオールバックにしていた。白いコーデュロイのズボンを穿き、黒のスエードのジャンパーという出で立ちだった。ジャンパーには胸ポケットがついていて、男はそこに金縁で緑色のレンズが入ったサングラスを差し込んでいた。顔色はよくなく、目つきはさらによくなかった。口は不機嫌そうに閉じられたままだ。唇の両端が少し下がり気味なのを見て、友彦はイグアナを連想していた。
男は店に入ってくるなり、まず友彦の顔を見た。それから電話をしている最中の弘恵を、友彦の時の倍ほど時間をかけて観察した。途中で気づいた弘恵は、気味悪くなったのか、椅子を半転させてしまった。
その後、男は棚に積まれたパソコンや周辺機器を、じろじろと眺めた。買うつもりも、パソコンに対する興味もないということは、その表情を見ればわかった。
「ゲームはないんか?」やがて男が声を発した。かすれた声だった。
「どういったゲームをお探しですか?」マニュアル通りに友彦は尋ねた。
「マリオ」と男はいった。「スーパーマリオみたいな、面白いのがええな。ああいうのはないの?」
「せっかくですけど、パソコン用のゲームには、ああいったものはないと思います」
「なんや、そうなんか。残念やな」言葉とは逆に、男は少しも落胆している様子ではなかった。意味不明の不気味な笑みを浮かべたまま、依然として部屋の中を見回している。
「そういうことでしたら、ワープロにされたほうがいいと思いますね。パソコンでもワープロとして使えるんですけど、まだまだ使い勝手が悪いですよ。……NECですか。はいNECさんからも出ていますよ。上位機種では、文豪5Vとか5Nがあります。……保存はフロッピーディスクにするんです。……安い機種ですと、一度に表示できる行数が少ないですし、大きな文書を保存しようとすると、いくつかにわける必要があったりするんです。……ええ、やはり文章をお書きになるお仕事の方でしたら、上の機種のほうがよろしいかと」弘恵の受話器に向かって話す声が、店内に響いている。その声はいつもよりはきはきしているように友彦には聞こえた。彼女の狙いが彼にはわかった。うちの店は忙しくて妙な客に付き合っている暇はないのだというところを、男に示そうとしているのだ。
一体何者だろうと友彦は思い、同時に警戒した。ただの客でないことは確実だった。スーパーマリオブラザーズの名称を口にしたことが、さらに友彦を不安にさせていた。先週金城が持ち込んできた話と関係があるのだろうか。
弘恵が電話を終えると、それを待っていたように男の目が再び友彦たちのほうを向いた。どちらに話しかけるか迷うように二人の顔を交互に見た後、弘恵に視線を止めていった。
「リョウは?」
「リョウ?」弘恵が戸惑ったような目を友彦に向けた。
「亮司や。桐原亮司」男はぶっきらぼうにいった。「ここの経営者はあいつやろ。今は留守か?」
「仕事で出かけてまして」と友彦が答えた。
男は彼のほうに首を回した。「いつ頃帰る?」
「それがよくわからんのです。遅くなると聞いてますけど」
嘘だった。予定では、そろそろ帰ってくるはずだった。しかし友彦は直感的に、この男を桐原に会わせてはいけないと思った。少なくとも、このまま会わせてはいけない。桐原のことをリョウと呼び捨てにした人間は、友彦の知るかぎりでは西口奈美江だけだ。
「ふうん」男は、じっと友彦の目を見つめた。若い男の言葉の裏に隠された意思を、透視しようとする目だった。友彦は顔をそむけたくなった。
まあとにかく、と男はいった。「ちょっと待たせてもらうで。待つのは、別にかめへんやろ?」
「ええ、それは構いませんけど」だめだとはいえなかった。そしてこんな場合、桐原ならきっとうまく追い返すのだろうと友彦は思った。彼のように、うまく物事をさばけない自分が腹立たしかった。
男はパイプ椅子に腰かけた。ジャンパーのポケットから煙草を取り出しかけたが、店内禁煙の張り紙が目に留まったらしく、そのままポケットに戻した。小指にプラチナらしき指輪をはめているのが見えた。
友彦は男を無視して伝票の整理を始めた。だが男の視線が気になり、何度も間違えた。弘恵は男に背を向けて、注文書の確認をしている。
「しかし、あいつもやるもんやなあ。なかなか立派な店やないか」男が店内を見回しながら口を開いた。「リョウのやつ、元気にしてるか?」
「元気ですよ」男のほうは見ないで、友彦は答えた。
「そうか。それはよかった。まあ昔から、あまり病気とかはせえへんやつやったからな」
友彦は顔を上げた。昔から、という台詞が気になった。
「お客さん、桐原とはどういったお知り合いなんですか?」
「古い付き合いや」いやな笑いを浮かべて男はいった。「あいつがガキの頃から知ってる。あいつのことも、あいつの親のこともな」
「御親戚とか?」
「親戚やない。けど、親戚みたいなもんかな」男はそういってから、自分の答えに納得したように、うんうんと何度も頷いた。その動きを止めてから、逆に訊いてきた。「リョウのやつ、相変わらず陰気か?」
えっ、と友彦は聞き直した。
「陰気かって訊いてるんや。ガキの頃から暗いやつでな、何を考えてるのか、さっぱりわからへんかった。今はちょっとはましになったのかと思ってね」
「別に……ふつうですよ」
「そうか。ふつうか」何がおかしいのか、男は含み笑いをした。「ふつうねえ。そいつはよかった」
仮にこの男が本当に桐原の親戚だったとしても、決して付き合いたくないと友彦は思った。
男が腕時計を見て、両足の太股《ふともも》をぱんと叩き、腰を浮かせた。
「帰ってきそうにないな。出直すとしょうか」
「何かお言付けがあるなら、聞いておきますけど」
「いや、ええ。会ってじかに話したい」
「じゃあ、お客さんのお名前だけでも伝えておきます」
「ええというとるやろうが」男は友彦をじろりとひと睨みし、玄関ドアに向かった。
まあいいか、と友彦は思った。この男の特徴をいえば、桐原ならわかるに違いない。それより今は、この男を早く帰すことが先決だ。
「またお越しください」
友彦が声をかけたが、男は何もいわずにドアの把手《とって》に手を伸ばした。
だがその手が届く前に、把手がくるりと回転した。さらにドアが外側に開けられた。
ドアの向こうには桐原が立っていた。驚いた顔をしていたのは、すぐ目の前に人がいたからだろう。
しかしその目が男の顔に焦点を結ぶと、彼の表情は一変した。驚きを示していることに違いはなかったが、それの質が全く違っているようだった。
顔全体がぐにゃりと歪んだかと思うと、次にはコンクリートで作ったマスクのように固まった。その顔には暗い影が落ちていた。目にはどんな光も宿らず、唇はこの世のすべてを拒絶していた。そんな彼の様子を見るのは、友彦は初めてだったので、一体何が起きたのかわからなかった。
ところが桐原のこの変化は、ほんの一瞬のことだった。次の瞬間には、彼はなんと笑顔を見せていたのだ。
「マツウラさんやないか」
おう、と男も笑いながら応じた。
「久しぶりやったなあ、元気にしてるか」
二人は友彦の見ている前で、握手をした。
単語と言葉
仕入れ采购
こなす处理;办理
専ら(もっぱら)专门主要
暮れ年底
てんてこ舞い忙得不可开交/焦头烂额
中肉中背(ちゅうにくちゅうぜい)标准体格
コーデュロイ灯芯绒
スエード绒面革皮革
ジャンパー夹克
出で立ち(いでたち)打扮
金縁(きんぶち)金框金边
イグアナ鬣蜥
かすれる嘶哑
使い勝手是否好用
そむける背过
プラチナ白金
じかに直接
友彦和桐原谈论“超级马里奥”的隔周星期一,那个男子来了。桐原出去进货了,友彦一个人招呼顾客。中岛弘惠也在,不过她的工作是接听、电话。他们在杂志和广告上刊登广告,所以打电话来询问和下单的人不少。“MUGEN”是去年底开张的,那时弘惠还不是员工,友彦和桐原两个人忙得晕头转向,她今年四月起才加入。友彦一开口,她便答应了。弘惠说原来的工作很无聊,正考虑辞职,她前一份工作就是在友彦工作到去年秋天的那家店。
半价买了旧款电脑的客人离去后,那个男子进来了。他中等身材,似乎不到五十岁,额际的发线有点退后,头发全往后梳。他穿着白色灯芯绒长裤和黑色麂皮运动夹克,一副金边绿色墨镜挂在夹克胸前的口袋。他脸色不好,两眼无神,嘴巴不悦地闭紧,嘴唇两端有点下垂,让友彦联想到鬣蜥。
他一进店,先看向友彦,接着以加倍的时间观察正在通电话的弘惠。弘惠注意到了他的视线,可能是觉得不舒服,便把椅子转到一侧。
男人随后盯上了架上堆的电脑和相关配置。看他的表情就知道他不打算买,对电脑也不感兴趣。
“没有游戏吗?”男人终于开口了,声音很沙哑。
“您要找什么样的?”友彦程序化地问道。
“‘马里奥’。”男人说,“像‘超级马里奥’那类很好玩的。有没有?”
“很抱歉,没有。”
“真可惜。”和说的话相反,男人丝毫没有失望的模样。他露出不明所以且令人反感的笑容,继续四下瞅。
“这样的话,我建议您用文字处理机。虽然电脑也可以进行文字处理,但用起来还是不太方便……NEC?是的,NEC也推出了。高级机种有文豪5V或5N……档案储存在磁盘里……平价的机种一次能显示的行数很少,要储存的时候,比较大的文件有时候必须分成几个档案来存……是的,如果您的工作是以书写文字为主,我想高级机种更适合。”弘惠对着听筒说话的声音,整个店里都听得到。友彦听得出来,她的声音比平常更快更响。他明白她的用意是想向男子表示店里很忙,没时间应付你这种莫名其妙的客人。
友彦思忖着他究竟是何方神圣,同时提高了警觉。他显然不是一般客人,从他嘴里听到“超级马里奥”,使友彦更加不安。这个人和上星期金城提的那件事有关吗?
弘惠挂上了电话,男子似乎就在等待这一刻,再度将视线投注在友彦他们身上。仿佛不知道该向谁开口似的,他的目光在他们两人脸上转来转去,最后停在弘惠身上。
“亮呢?”
“亮?”弘惠疑惑地看向友彦。
“亮司,桐原亮司。”男子冷冷地说,“他是这里的老板吧,他不在?”
“出去办事了。”友彦回答。
男子转向他:“什么时候回来?”
“不清楚,他说会晚一点。”
友彦说了假话,按照预定,桐原应该快回来了。但是友彦下意识地认为不能让这人见到桐原,至少,不能就这样让他们见面。称呼桐原为亮的人,据友彦所知,只有西口奈美江一个。
“哦。”男子直视友彦的眼睛,那是想看穿这个年轻人的话语背后有何含意的眼神。友彦很想把脸扭开。
“那好,”男子说,“我就等他一下。可以在这里等吗?”
“当然可以。”他不敢说不行,也认为桐原一定能从容处理这一场面,把此人赶走。他恨自己不能像桐原那样,把事事处理妥当。
男子坐在椅上,本来准备从夹克口袋里拿出香烟,好像是看到了墙上贴着禁烟的字条,便又放回口袋。他手上戴着白金尾戒。
友彦不理他,开始整理传票,却因为在意他的视线而弄错了好几次。弘惠背对着那男子确认订单。
“没想到那小子还挺有本事,这店不错啊。”男子环视店内,说,“亮那小子还好吧?”
“很好。”友彦看也不看,直接回答。
“那就好。不过,他从小就很少生病。”
友彦抬起头来,“从小”这字眼让他感到好奇。“您跟桐原是什么样的朋友?”
“老相识了,”男人露出令人厌恶的笑容,“我从他小时候就认识他了。不但认识他,也认识他爸妈。”
“亲戚?”
“不是,也差不多吧。”说完,男子好像很满意自己的回答,嗯嗯有声地点头。他停下动作,反问道:“他还是那样阴沉吗?”
“嗯?”友彦发出一声疑问。
“我问他是不是很阴沉。他从小就阴森森的,脑袋里在想什么让人完全摸不透。我在想他现在是不是好一点了。”
“还好啊,很普通。”
“哦。”不知道哪里好笑,男人无声地笑了,“普通,真是太好了。”
友彦想,就算这人真是桐原的亲戚,桐原也绝对不想和他有所来往。
男子看看手表,一拍大腿,站了起来。“看来他一时不会回来,我下次再来。”
“若需要留言,我可以转告。”
“不用了,我想直接跟他说。”
“那么我把您的大名转告他好了。”
“我说了不用。”男人瞪了友彦一眼,走向玄关。
那就算了,友彦想。只要把这人的特征告诉桐原,他一定会明白。再说,现在第一要务是让此人早点离去。
“谢谢光临。”友彦说道,男子却一言不发地伸手拉把手。
他的手尚在半空,把手便转动了。接着,门打开了。桐原就站在门外。他一脸惊讶,应该是看到面前有人的缘故。
但他的视线在男人脸上一聚焦,表情突然变了。虽然同样是惊讶,性质却完全不同。
他整张脸都扭曲了,接着变得像水泥面具般僵硬。阴影落在他的脸上,眼里没有任何光彩,嘴唇抗拒世上的一切。友彦第一次看到他这副模样,不明白究竟发生了什么。
然而,桐原这些变化只发生在刹那之间。下一刻,他竟然露出了笑容。“松浦先生?”
“是啊。”男子笑着回应。
“好久不见,你好吗?”
两人当着友彦的面握起手来。
38-2
松浦、というのが男の名字だった。やはり昔からの知り合いらしい。だが桐原が友彦に教えてくれたことは、それだけだった。それだけ説明すると、二人で隣の部屋へ行ってしまった。
友彦は戸惑っていた。桐原が見せたあの笑顔から察すると、会って嫌な相手ではなさそうだ。となると、会わせないほうがいいと思った友彦の直感は、間違っていたことになる。
しかし彼は、笑顔よりも、その直前に見せた桐原の表情のほうが気に掛かっていた。ほんの一瞬ではあったが、負のエネルギーを凝縮したような凄《すご》みが桐原の全身から発せられていた。あの様子とその後の笑顔が、どうにも結びつかなかった。もしかすると自分の思い過ごしだったのかという気もするのだが、あの異様な気配が勘違いの産物だとは、どうしても思えなかった。
弘恵が戻ってきた。彼女は隣の部屋に日本茶を運んで行ったのだ。
「どうやった?」と友彦は訊いた。
弘恵は一度首を捻《ひね》ってから、「なんだか楽しそうやったけど」といった。「あたしが入っていったら、つまらない冗談をいい合って笑ってた。あの桐原さんが、駄洒落《だじゃれ》をいうてるんよ。信じられる?」
「信じられへんな」
「でも事実なの。あたし、耳を疑ったわ」弘恵は、自分の右耳をほじるしぐさをした。
「松浦の用件が何なのかはわかった?」
友彦が訊くと、彼女は申し訳なさそうにかぶりを振った。
「あたしがいる前では雑談してるだけやった。他人に話を聞かれたくないみたい」
「ふうん」
胸が、ざわざわと騒いだ。隣で二人は、どんなやりとりを交わしているのか。
それから約三十分後、隣のドアの開く気配がした。さらに十秒ほどすると、店のドアが開けられ、桐原が顔を覗かせた。
「俺、ちょっと松浦さんを、そのへんまで送ってくるから」
「あ、お帰りか」
「うん。すっかり長話になった」
桐原の向こうにいた松浦が、どうもどうも、といって手を振った。
ドアが再び閉じられると、友彦は弘恵を見た。彼女も友彦を見ていた。
「どういうことやろ」と友彦はいった。
「あんな桐原さんを見たの、初めて」弘恵も目を丸くしていた。
しばらくして桐原が戻ってきた。ドアを開けるなり、「園村、ちょっと隣に来てくれ」といった。
「ああ……わかった」友彦が答えた時には、もうドアは閉まっていた。
友彦は弘恵に店番を頼んだ。彼女は怪訝《けげん》そうに首を傾《かし》げた。友彦は首を振るしかなかった。長年の付き合いではあるが、桐原について知らないことは山ほどあった。
隣の部屋に行くと、桐原が窓を開け放ち、空気を入れ換えているところだった。その理由はすぐにわかった。部屋中に煙草の煙が充満しているのだ。桐原が、ここへ来た人間に喫煙を許可したのは、友彦の知るかぎりではこれが初めてだった。コンビニで買った鍋焼きうどんのアルミ鍋が、灰皿代わりに使われていた。
「義理のある相手や。何の愛想もでけへんから、煙草ぐらいは吸わせてやろうと思ってな」友彦の疑念を晴らすように桐原はいった。言い訳がましく聞こえたので、これまたこいつらしくない、と友彦は感じた。
空気が入れ替わり、室内がすっかり十二月の外気温に変わると、桐原は窓を閉めた。
「何の話かと後で弘恵ちゃんに訊かれたら」ソファに腰を下ろしながら彼はいった。「松浦さんのところにパソコンを二台、卸しの値で流してやる話やったと答えといてくれ。たぶん今頃は、俺らがどんな話をしているのか、あれこれ想像してるやろうからな」
「ということはつまり、本当はそういう話ではないということか」友彦はいった。「彼女には聞かせられへん話ということか」
「まあそういうことや」
「あの松浦という人が関係してるんやな」
ああ、と桐原は頷いた。
友彦は両手で髪を後ろにかきあげた。
「なんていうか、俺としてはあんまり面白い気分やないな。あの人が何者なのかも知らんしな」
「使用人や」桐原がいった。
「えっ?」
「うちの使用人だった男や。昔、俺の家が質屋をしてたことは話したやろ。その頃、働いてた男や」
「質屋に……そうか」友彦としては全く予想外の答えだった。
「親父が死んだ後も、うちが店じまいをするまで働いてた。つまり俺やお袋は、実質的にあの人に養われてたということになる。松浦さんがおれへんかったら、俺らはすぐにも路頭に迷ってたやろな」
桐原の言葉を聞き、友彦はどう答えていいのかわからなくなった。こんなふうに三文小説風にしゃべるというのも、いつもの桐原からは考えられないことだった。昔の恩人に会って、神経が昂《たかぶ》っているということだろうかと思った。
「で、その大切な恩人が何のために今頃やってきたんや。いやそれより、桐原がここにいるということがなんでわかったんやろう。桐原のほうから連絡したのか?」
「そうやない。あの人のほうが、俺がここで商売をしてることを知って、訪ねてきたんや」
「どこで知ったんや?」
「それがな」桐原は片方の頬を微妙に歪めた。「金城から聞いたらしい」
「金城?」嫌な予感が胸に広がるのを友彦は感じた。
「この間、おまえと話したな。仮にスーパーマリオの海賊版を作れたとして、どうやって売るつもりなのかということを。その答えが見つかった」
「何か、からくりでもあるのか」
「からくりなんていう大層なものやない」桐原は身体を揺すった。「簡単な話や。要するに、ガキにはガキなりの裏取引の場があるということらしい」
「どういうこと?」
「松浦さんは、ちょっとやばい商品専門のブローカーをしてるという話や。扱う品物に制限はない。どんなものでも金になると思たら仕入れるし、売りさばくそうや。特にこのところ力を入れているのが、子供向けのゲームソフトらしい。スーパーマリオなんかは正規の店では品薄やから、実際の価格よりさほど値下げせんでも飛ぶように売れていくという話やった」
「あの人は、どこからマリオを仕入れてるんや? 任天堂に何か特別なパイプでも持ってるのか」
「そんなものはない。ただし特別な仕入先があるらしい」桐原は意味ありげに、白い歯を見せた。「それはふつうのガキや。ガキが、松浦さんのところに持ち込んでくるらしい。ではそのガキ共は、どこで入手してくるか。お笑いやぞ。ガキ共は万引きしたり、持ってるガキのをカツアゲするんや。松浦さんの手元には、三百人以上の悪ガキの名前を載せたリストがあるそうや。その連中が、定期的に自分らの獲物を売りに来る。それを市価の一割から三割程度の値段で買い取って、別のガキに七割程度の値段で売るわけや」
「偽物のスーパーマリオも、その店で売りさばくということか?」
「松浦さんはネットワークを持ってる。似たようなブローカーが何人もいるそうや。そういった連中に任せたら、スーパーマリオなら五千や六千は、たちどころに売りつくしてしまうという話やった」
「桐原」友彦は小さく右手を出した。「やらないという話だったよな。今度ばかりは、危なすぎるということで、俺らの意見は一致してたよな」
友彦の言葉に、桐原は苦笑を浮かべた。その笑いの意味を友彦は汲《く》み取ろうとしたが、真意はわからなかった。
「松浦さんは」桐原が話し始めた。「金城から俺のことを聞いて、昔自分が働いていた質屋の息子だと気づいた。それで、俺の説得係としてここへ来たわけや」
「それでまさか、説得されたわけやないやろ?」友彦は、しつこく尋ねた。
桐原は太いため息をついた。それから少し身を乗り出した。
「これは俺一人でやる。おまえは一切ノータッチでええ。俺のすることには、完全に無関心でいてくれ。弘恵にも、俺が何をしてるかは気づかれんようにしてくれ」
「桐原……」友彦は首を振った。「危険やぞ。この話はやばい」
「やばいことはわかってる」
桐原の真剣な目を見つめ、友彦は絶望的な気分になった。こんな目をした時の彼を説得することなど、自分には到底無理だと思った。
「俺も……手伝うよ」
「断る」
だけど、やばいよ、と友彦は口の中で呟いた。
単語と言葉
ブローカー中间商倒爷经纪人
さばく销售
品薄(しなうす)缺货
パイプ 联系
かつあげ 恐吓
たちどころに立刻
松浦是那人的姓氏,他们确实早就认识。桐原告诉友彦的只有这么多,交代了这句,两人便到隔壁仓库去了。
友彦感到疑惑。从桐原露出的笑脸看来,那人应该并非他不想见到的人。这么一来,友彦先前所想就错了。然而,桐原露出笑容之前的表情更让友彦放心不下。虽然只是短短的一刹那,但桐原全身射出一股由负面能量凝聚而成的暴戾之气。那种样子和随后的笑容实在无法连贯。虽然友彦怀疑是不是自己太多虑,但他委实不敢相信那种异常乃是出自于他的误会。
弘惠回来了,她刚端茶去了隔壁。
“怎样?”友彦问。
弘惠先歪着头想了想,才说:“看起来好像很开心。我一进去,他们正说着冷笑话,在那里笑。桐原竟然会说冷笑话,你能想象吗?”
“不能。”
“但那是事实,我还怀疑我的耳朵呢。”弘惠做了掏耳朵的动作。
“听没听到松浦找他干吗?”
她歉然摇头。“我在的时候,他们净说些闲话,好像不想让别人听到。”
“哦。”友彦感到不安。他们究竟在隔壁谈什么?
又过了三十分钟左右,他感觉隔壁的门开了。又过了十秒,店门打开了,桐原探头进来。“我送一下松浦先生。”
“啊,他要走了?”
“嗯,聊了很久。”
桐原身后的松浦说声“打扰”,挥挥手。
门再度关上,友彦看看弘惠,她也正看着他。
“到底怎么回事?”友彦说。
“我第一次看到桐原那样。”弘惠惊讶地睁大眼睛。
不久,桐原回来,一开门便说:“园村,来隔壁一下。”
“哦……好。”友彦回答时,门已经关上了。
友彦托弘惠看店,她惊讶地偏着头,友彦只能对她摇头。友彦虽然认识桐原多年,对他的了解却极为有限。
一到隔壁,桐原正打开窗户,让空气流通。友彦马上明白了他为何如此,因为房里烟雾弥漫。就友彦所知,这是桐原第一次准许访客抽烟。便利店买来的锅烧乌龙面的铝箔制容器被当成了烟灰缸。
“他对我有恩,没什么好招待的,我想至少得让他抽烟。”桐原说,似乎是想解开友彦的疑惑。听起来很像借口,友彦反而觉得这不像桐原会做的事。
等室温降到和外面十二月的气温一样时,桐原关上窗户。“若弘惠待会问你我们谈了什么,”他说着往沙发上坐去,“就说松浦先生要我用进价卖两台电脑给他。我想她现在一定在猜我们正说些什么。”
“这么说,其实并非这样?”友彦说,“不能让她知道?”
“嗯。”
“跟那个松浦有关?”
“对。”桐原点点头。
友彦双手把头发往后拢。“怎么说呢,我觉得很没意思。我连他是谁都不知道。”
“我家雇用的人。”
“啊?”
“我说过我家以前开当铺,那时他在我家工作。”
“哦。”这答案超出友彦想象。
“我爸去世以后,一直到当铺关门,他都在我家工作。实话实说,我和我妈其实是靠他养的。若没有松浦先生,我爸一去,我们或许就流落街头了。”
友彦不知该如何回答。从桐原平常的样子,实在很难想象他会讲这种三流小说里的话。友彦想,大概是见到往日的恩人,情绪激动的缘故。
“那你们家的大恩人现在跑来找你做什么?不,等一下,他怎么知道你在这里?是你联系他的?”
“不。是他知道我在这里做生意,才找上门来。”
“他怎么知道?”
“嗯,”桐原一边脸颊微微扭曲,“好像是听金城说的。”
“金城?”友彦内心生起一股不祥的预感。
“上次我跟你说过,即使做得出盗版‘超级马里奥’,也不知他们打算怎么卖。现在找到答案了。”
“有什么玄机?”
“没那么夸张,”桐原晃了晃身体,“简单得很。小孩有小孩的黑市。”
“什么意思?”
“松浦先生专门经手一些来路有鬼的商品。他什么都碰,只要能赚钱,就进货再转手卖掉。最近努力经营的听说是小孩的游戏。‘超级马里奥’在正规商店里很难买到,价格不必比实际定价低多少,照样大卖。”
“他从哪里进‘马里奥’?在任天堂有什么特别的门路?”
“哪来那种门路啊,不过他倒是有特别的进货渠道。”桐原别有含意地一笑,“就是一般的小孩,小孩会把东西带到他那里去卖。那些小孩的东西又来自哪里呢?很可笑,有的是偷来的,有的是去从有‘马里奥’的小孩那里抢来的。松浦先生手里的名单上,这种坏小孩超过三百个,他们定期把收获卖给他。他用市价的一到三成买进,再以七成的价钱卖出。”
“假的‘超级马里奥’他也卖?”
“松浦先生有他的销售网,说还有好几个跟他差不多的中间商。交给这些人,‘超级马里奥’卖个五六千元,保证几下子就卖光。”
“桐原,”友彦微伸右手,“你说过不干的。我们上次说好这实在太危险,不是吗?”
听到友彦的话,桐原露出苦笑。友彦努力解读这一笑容,却无法明白其中的真意。
“松浦先生,”桐原说,“从金城那里听说我的事,发现我是他前雇主的儿子,才想来说服我。”
“你该不会被说动了吧?”友彦追问。
桐原重重地叹了一口气,上身微微靠向友彦。“这事我一个人来,你完全不要碰,也不要管我在做什么。弘惠那边也一样,不要让她发现我在做什么。”
“桐原!”友彦摇头,“太危险了,这事做不得!”
“我知道。”
友彦凝视着桐原认真的眼神,感到绝望。当桐原出现这种眼神的时候,友彦明白自己终究无法说服他。
“我也来……帮忙。”
“不。”
“可是,实在危险啊……”友彦咕哝着。
38-3
『MUGEN』は、十二月三十一日まで店を開けることになっていた。その理由を桐原は二つ挙げた。一つは、年末ぎりぎりになって年賀状を書こうとする連中が、ワープロなら楽ができるのではないかと期待して買いに来る可能性があるということで、もう一つは、年末になっていろいろと金の計算をしなければならない人間たちが、突然パソコンの調子がおかしくなって駆け込んでくることもあるだろうというものだった。
しかし実際にはクリスマスが過ぎると、店には殆ど客が来なくなった。たまに来るといえば、ファミコン屋と間違えて入ってくる小学生や中学生ぐらいだ。暇な時間を友彦は、弘恵とトランプをして過ごした。机の上にカードを並べながら、これからの子供たちは、もしかすると七並べやババ抜きも知らなくなるかもしれないと二人で話したりした。
客は来なかったが、桐原は連日忙しそうに出歩いていた。『スーパーマリオブラザーズ』の海賊版作りに動いていることは間違いなかった。桐原さんはいつもどこへ行くのかしらと疑問を口にする弘恵に対し、友彦はうまい言い訳を探すのに苦労した。
松浦が顔を見せたのは、二十九日のことだった。弘恵は歯医者に出かけており、店には友彦しかいなかった。
松浦の顔を見るのは、最初に会った時以来だった。相変わらず、顔色はくすみ、目は濁っていた。それをごまかすかのように、この日は色の薄いサングラスをかけていた。
桐原は出かけているというと、例によって、「ほな、待たせてもらおか」といってパイプ椅子に腰を下ろした。
松浦は、襟に毛のついた革のブルゾンを着ていた。それを脱ぎ、椅子の背もたれにかけながら店内を見渡した。
「年の瀬やというのに、しぶとう店を開けとるなあ。大晦日までか?」
そうです、と友彦が答えると、松浦は肩を小さく揺すって笑った。
「遺伝やな。あいつの親父も、大晦日の夜遅うまで店を開けとく主義やった。年末は、掘り出し物を安う叩くチャンスやとかいうてな」
桐原の父親についての話を、桐原以外の人間から聞くのはこれが初めてだった。
「桐原の親父さんが亡くなった時のこと、御存じですか」
友彦が質問すると、松浦はぎょろりと目玉を動かして彼を見た。
「リョウから話を聞いてへんのか」
「詳しいことは何も。通り魔に刺されて死んだというようなことを、以前ちらっとだけ……」
その話を聞かされたのは、数年前だ。親父は道端で刺されて死んだ――桐原が父親について語ったことのすべては、殆どこれだけだったといっていい。友彦は強烈に好奇心を刺激されたが、何一つ尋ねることはできなかった。この話題に触れることを許さない雰囲気が、桐原にはある。
「通り魔かどうかはわからんな。何しろ、犯人が最後まで捕まらんかった」
「そうなんですか」
「近所の廃ビルの中で殺されとったんや。胸をひと刺しやった」松浦は口元を歪めた。「金がとられとったから、強盗の仕業やろうと警察は踏んでいたようや。しかも、その日にかぎって大金を持ってたから、顔見知りやないかと疑ってたみたいやな」何がおかしいのか、途中でにやにや笑い始めた。
その笑いの意味を友彦は察した。「松浦さんも疑われたんですか」
「まあな」といって松浦は声を出さぬまま、表情をさらに崩した。人相の悪い顔は、どんなに笑っても不気味にしか見えなかった。松浦はそんな笑いを浮かべて続けた。「リョウのおふくろさんはまだ三十代半ばで女っぷりもよかった。そんな店に、男の店員がおったわけやから、いろいろとあることないこと勘ぐられる」
友彦は驚いて、目の前にいる男の顔を見返した。この男と桐原の母親の仲が怪しまれたということか。
「本当のところはどうやったんですか」と彼は訊いてみた。
「何がや? 俺が殺《や》ったわけやないぞ」
「そうじゃなくて、桐原のおふくろさんとの仲は……」
ああ、と松浦は口を開けた。それからちょっと迷うように顎《あご》を撫《な》でた後、「何にもなかったで」と答えた。「何の関係もなかった」
「そうですか」
「そうや。信じられへんか」
「いえ」
友彦は、この点についてこれ以上深く詮索するのはやめておくことにした。
だが彼なりの結論は出ていた。松浦と桐原の母親には、おそらく何らかの関係があったのだろう。もっとも、それが父親が殺された事件に関係しているかどうかはわからない。
「アリバイとかも調べられたんですか」
「もちろんや。刑事はしつこいからな。生半可なアリバイでは納得してくれへんかった。ただ俺がついてたのは、ちょうど親父さんが殺された頃、店に電話がかかってきたことや。事前に打ち合わせがでけへん電話やったから、警察もようやく俺から目を離してくれたというわけや」
「へえ……」
まるで推理小説の世界だなと友彦は思った。
「その頃桐原はどうしてたんですか」
「リョウか。あいつは被害者の息子やからな、世間からしきりに同情されとったわ。事件が起きた時は、俺やおふくろさんと一緒におったことになってるしな」
「なってる?」その言い方が引っかかった。「それ、どういう意味です」
「いや、別に」松浦は黄色い歯を見せた。「なあ、リョウは俺のことを、あんたにはどんなふうにしゃべってるんや。昔の使用人やというてるだけか」
「どんなふうにって……恩人だというてましたよ。養ってもらってたと」
「そうか、恩人か」松浦は肩を揺すらせた。「それはええ。たしかに恩人やろな。せやからあいつは俺には頭が上がらん」
意味がわからず友彦が質問をしようとした時だ。
「えらい古い話をしてるやないか」不意に桐原の声が聞こえた。入り口の前に彼が立っていた。
「あ、お帰り」
「昔話なんか聞かされても、退屈なだけやろ」そういいながら桐原はマフラーをほどいた。
「いや、初めて聞く話やから、かなり驚いている。正直なところ」
「あの日のアリバイの話をしとったんや」松浦がいった。「覚えてるか、ササガキという刑事。あいつ、しつこかったなあ。俺とリョウとリョウのおふくろさんの三人に、一体何回アリバイの確認をしよった? うんざりするほど、何遍もおんなじ話をさせられたで」
桐原は店の隅に置いた電気温風ヒーターの前に座り、両手を暖めていた。その姿勢のまま、松浦のほうに顔を向けた。「今日は何か用があったんか?」
「いや、特に用はない。年越しの前にリョウの顔を見とこうと思うてな」
「それなら、そのへんまで送るわ。悪いけど、今日はいろいろとやらなあかんことがあるから」
「なんや、そうか」
「うん、マリオのこととかな」
「おう、それはあかん。しっかりやってもらわんとな。で、順調か」
「予定通り」
「それはよかった」松浦は満足そうに頷いた。
桐原は立ち上がって、再びマフラーを首に巻き付けた。松浦も腰を上げた。
「さっきの話の続きは、また今度な」松浦は友彦に向かってそういった。
二人が出ていってしばらくしてから、弘恵が戻ってきた。下で桐原と松浦を見たといった。松浦の乗ったタクシーが動きだすまで、桐原は道路脇に立っていたらしい。
「桐原さん、どうしてあんな人を慕うのかな。昔世話になったというけど、要するにお父さんが亡くなった後も、そのまま働いていたというだけのことやないのかなあ」
不可解だといわんばかりに、弘恵はゆらゆらと頭を振った。
友彦も全く同感だった。先程の話を聞いて、ますます解《げ》せなくなった。松浦と桐原の母親の間に何かあったのなら、あの勘の鋭い桐原が気づかないはずがない。そして気づいていたのなら、現在のような態度を松浦に対してとるとは思えなかった。
松浦と桐原の母親との間には、何もなかったということか――ついさっき確信したばかりのことについて、友彦は早くも自信を失いかけていた。
「桐原さん、遅いね」事務机に向かっていた弘恵が、顔を上げていった。「何してるのかな」
「そういうたらそうやな」松浦がタクシーに乗って立ち去るのを見送っていたとしても、とっくに戻ってきているはずだった。
気になって友彦は部屋を出た。そして階段を下りようとしたところで、その足を止めた。
桐原が、一階と二階の中間にある踊り場に立っていた。二階にいる友彦からは、彼の背中を見下ろす形になる。
踊り場には窓がついていた。そこから外を眺めることができる。すでに午後六時近くになっているので、通りを走る車のヘッドライトの光が、彼の身体をスキャンするように通過していく。
友彦は声をかけられなかった。じっと外を見つめる桐原の背中に、ただならぬ気配を感じた。
あの時と同じだ、と友彦は思った。桐原が松浦と再会した時のことだ。
友彦は足音を殺し、部屋の前まで戻った。そして音をたてぬよう気をつけてドアを開き、身体を中に滑り込ませた。
ーつづく
単語と言葉
くすみ暗沉
詮索(せんさく) 刨根问底
生半可(なまはんか)不充分
“MUGEN”十二月三十一日照常营业。对此,桐原列举了两个理由:第一,一直到年底最后一天才准备写贺年卡的人,可能会抱着有文字处理机便可轻松完成的心态上门;第二,年底必须结算各种款项的人,可能因为电脑临时出故障而冲进来。
事实上,圣诞节一过,店里几乎没什么客人。来的多是误以为这里是家庭游戏机店的小学生和初中生,友彦大都和弘惠玩扑克牌打发时间。两个人一边把扑克牌摊在桌上,一边聊着以后的小孩说不定连什么叫接龙、抓鬼都不知道。
店里没有客人,桐原却每天忙进忙出,肯定是为了制作盗版“超级马里奥”。对于弘惠提起桐原究竟去了哪里的疑问,友彦绞尽脑汁找理由搪塞。
松浦于二十九日再次露面。弘惠去看牙医了,店里只有友彦在。
松浦这次的脸色还是一样暗沉,眼睛也一样混浊。仿佛为了加以遮掩,他戴着浅色太阳镜。一听说桐原出门,他照例说声“那我等他好了”,便在椅上坐下。
松浦把毛领皮夹克脱下,挂在椅背上,环顾店内。“都年底了,还照样开店啊,连除夕都开?”
“是的。”
一听友彦这么回答,松浦微微耸肩,笑了。“真是遗传。他爸爸也一样,主张大年夜开店开到晚上,说什么年底正是低价买进压箱宝的好机会。”
这还是友彦头一次从桐原以外的人口中听到他父亲的事。
“桐原的父亲去世时的事,您知道吗?”‘友彦一问,松浦骨碌碌地转动眼珠看他。“亮没跟你讲?”
“没说详情,只提了一下,好像是被路煞刺死的……”
这是他好几年前听说的。我爸是在路上被刺死的——对父亲,桐原说过的只有这么多。这句话激起了友彦强烈的好奇,但不敢多问,桐原身上有一种不许别人触碰这个话题的气场。
“不知是不是路煞,因为一直没有捉到凶手。”
“哦。”
“他是在附近的废弃大楼里被杀的,胸口被刺了一下。”松浦的嘴角扭曲了,“钱被抢走了,警察以为是强盗干的。他那天身上偏偏带了一大笔钱,警察还怀疑凶手是不是认识他的人。”不知道有什么好笑,松浦说到一半便邪邪地笑了起来。
友彦看出了他笑容背后的含意。“松浦先生也被怀疑了?”
“是啊。”说完,松浦笑得更厉害了。一脸恶人相的人再怎么笑,也只是令人恶心。松浦脸上带着这样的笑容,继续说:“亮的妈妈那时才三十几岁,还算有点魅力,店里又有男店员,警察很难不乱想。”
友彦吃了一惊,视线再度回到眼前这人脸上。他们怀疑这人和桐原母亲的关系?“事情到底是怎样?”他问。
“什么怎样?我可没杀人。”
“不是,您和桐原的妈妈之间……”
“哦,”松浦开口了,似乎有点犹豫地摸摸下巴,才回答,“什么都没有,没有任何关系。”
“哦。”
“你不相信?”
“哪里的话。”
友彦决定不再追问此事。但他心中得出一个结论,松浦与桐原的母亲之间恐怕的确有某种关系。至于和他父亲的命案有无关联,就不得而知了。
“警方也调查了你的不在场证明?”
“当然。警察很麻烦,随便一点的不在场证明,他们还不相信。不过,他父亲被杀的时候,正好有人往店里打电话找我,那是无法事先安排的电话,警察才总算放过我。”
“哦……”友彦想,简直就像推理小说。“桐原那时怎么样?”
“他啊,他是被害人的儿子,社会都很同情他。命案发生的时候,我们说他跟我和他妈妈在一起。”
“你们说?”这种说法引起了友彦的注意,“什么意思?”
“没什么。”松浦露出泛黄的牙齿,“我问你,亮是怎么跟你说我的?只说我是以前他们家雇用的人吗?”
“呃……他说您是他的恩人,说是您养活了他和他妈妈。”
“恩人?”松浦耸耸肩,“很好,我的确算是他的恩人,所以他在我面前抬不起头来。”
友彦不懂这句话的意思,正想问——“你们在说书啊!”突然间传来桐原的声音,他站在门口。
“啊,你回来了。”
“听那些八百年前的事无聊吧。”说着,桐原取下围巾。
“不会。以前都不知道,实在很惊讶。”
“我跟他讲那天的不在场证明。”松浦说,“你还记得那个姓笸垣的刑警吗?那家伙真够难缠的。他到底来对我、你和你妈确认过多少次不在场证明啊?同样的话要我们讲一百遍,烦得要死。”
桐原坐在置于店内一角的电热风扇前暖手。他维持着这个姿势,把脸转向松浦:“今天来有什么事?”
“没什么,只是想在过年前来看看你。”
“那我送你出去。不好意思,今天有很多事要处理。”
“有事?”
“嗯,‘马里奥’的事。”
“啊!那你可得好好干!还顺利吧?”
“跟计划一样。”
“那就好。”松浦满意地点点头。
桐原站起来,再次围上围巾,松浦也起身。“刚才那些下次再继续聊吧。”他对友彦说。
两人离开后不久,弘惠回来了,说在下面看到了桐原和松浦。桐原一直站在路边,直到松浦搭的出租车开走。
“桐原为什么会尊敬那种人?虽然以前受过他的照顾,说穿了也不过就是他爸爸去世以后,继续在他家工作而已。”弘惠大摇其头,似乎百思不得其解。
友彦也有同感,听了刚才的话,他更加迷惘。如果松浦和桐原的母亲关系不单纯,桐原那么精明,不可能没发现。既然发现了,实在很难相信他会用现在这种态度对待松浦。
难道松浦与桐原的母亲之间是清白的?刚确信的事,友彦却已经开始没有把握了。
“桐原真慢啊,”坐在办公桌前的弘惠抬起头来说,“在做些什么?”
“就是。”就算是目送松浦搭上出租车,也早该回来了。友彦有点担心,便来到外面,正准备下楼,却停下了脚步。桐原就站在一层、二层之间的楼梯间。人在二楼的友彦正好俯视着他的背影。
楼梯间有个窗户可以眺望外面。快六点了,马路上的车灯像扫描一般一一从他身上闪过。
友彦不敢出声相唤,从桐原凝视外面的背影中,他感觉到一股不寻常的气氛。和那时一样,友彦想,就是桐原和松浦重逢的时候。
友彦蹑手蹑脚地回到门口,小心翼翼地打开门,闪进店内。
-未完待续-
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